2023/04/18 09:00

「一関と東京を、食で繋ぐ」。名店[格之進]に貫かれる地元愛。

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六本木や渋谷、丸の内など食の激戦区で人気を集め、存在感を発揮し続ける熟成肉の店[格之進]。グループを率いる千葉祐士(ちば ますお)さんは、メディアでもおなじみの名物社長です。
そして少しお話しするだけでもわかりますが、千葉さんの肉への愛情と知識は圧倒的で、まるで肉の生き字引。しかし、それでも博士や伝道師でなく、あえて“肉おじさん”と名乗るのは、「皆様と一緒に肉の世界を盛り上げていきたい」との想いからだそうです。そして、肉への愛とともに千葉さんの根底を支えるもうひとつの信念が、地元・岩手への愛。
はたして千葉さんと[格之進]は、どんな想いで肉と向き合い、どんなこだわりで肉を扱っているのでしょうか。その秘密を探るため[格之進]の本拠地である岩手県一関市を訪れました。
拠点は、廃校になった小学校。この校舎から新たな賑わいが生まれることが「地域への恩返し」

拠点は、廃校になった小学校。この校舎から新たな賑わいが生まれることが「地域への恩返し」

一ノ関駅からタクシーに乗って30分ほど。教えていただいた[格之進]の本社兼工場を見て、驚きました。それはどこからどうみても学校。校庭があり、体育館があり、昇降口がある、小学校そのままの姿だったのです。実はこここそが[格之進]の本拠地。
2013年、統合のため廃校となった門崎小学校を、本社として利用しているのです。
「地元への恩返し」千葉さんはそう語ります。
千葉さんの父親も、千葉さん自身も、そして千葉さんの子どもたちも、皆この学校の卒業生。母校であり、地域の象徴であるこの学校が閉鎖され、ただ朽ちていくよりも、[格之進]の基地として新たな賑わいの拠点としたい。そんな想いが込められた革新的な挑戦です。
かつての体育館をまるごと工場にリニューアル。型破りな挑戦でハンバーグ作りに挑む。

かつての体育館をまるごと工場にリニューアル。型破りな挑戦でハンバーグ作りに挑む。

熟成肉と並ぶ[格之進]の看板商品・ハンバーグ。そのハンバーグもまた、この小学校跡で作られています。
工場は校舎左手にある旧体育館。今回は特別に工場の中を見学させていただきました。外から見ると体育館ですが、その中は先進的な工場。衛生管理や温度管理が徹底され、こだわりのハンバーグが作られています。
「さまざまな機械を導入していますが、実は味を決めるのは人の舌。従業員が毎日必ず試食をして細かな調整をします」とは工場責任者の松橋孝幸さん。ちなみに従業員の皆さんが着る白衣は、地元のクリーニング店に洗濯を依頼しているそう。手洗いと手掛けアイロンにこだわる昔ながらのクリーニング店。ここにも「地元に貢献したい」という千葉さんの想いが表れています。
「伝えたいのは、肉の味」。「格之進」のハンバーグが、人気を集める理由。

「伝えたいのは、肉の味」。
[格之進]のハンバーグが、人気を集める理由。

1日1万個。それがこの工場で作られるハンバーグの数です。これほど多くの人を惹きつけるハンバーグの魅力は、いったいどこにあるのでしょうか?
「一般的なプロダクトは、ブレのない均一な味を目指します。しかし私達が目指すのは生産者が心を込めて生産した食材をそのまま消費者に伝えることです」千葉さんはそうおっしゃいます。
脂の溶ける温度が異なる肉をブレンドして口溶けをコントロールすること、こだわりの塩麹で旨みを引き出すことなど、おいしさの秘密はいろいろ。しかしそれ以上に、千葉さんが信頼を寄せる岩手県の生産者の存在が、[格之進]のハンバーグを唯一無二のものにしているのでしょう。
味の決め手は、岩手産の厳選素材で仕込むオール岩手の塩麹。

味の決め手は、岩手産の厳選素材で仕込むオール岩手の塩麹。

ハンバーグの味の決め手は、肉のタンパク質や糖質をアミノ酸に分解し、旨みを引き出す塩麹。[格之進]のハンバーグに使われる自家製塩麹も、岩手産の原料から作られています。
三陸野田産の天然塩「のだ塩」、岩手初のオリジナル麹菌「黎明平泉(れいめいひらいずみ)」、そして門崎地区のメダカが泳ぐ田んぼで作られる「めだか米」。オール岩手産原料で作られた塩麹なのです。
この日、千葉さんが案内してくれたのは、収穫を間近に控えた「めだか米」の田んぼ。張り巡らされた水路には、暖かい時期になると絶滅危惧種のミナミメダカが泳ぐのです。繊細なメダカが泳ぐほどの環境なら、もちろん人の体にも安心安全。夏にはホタルもやってくる自然豊かな田んぼは、岩手の恵まれた自然の象徴です。

岩手の魅力を、東京に、世界に発信。地元への想いが、サステナブルに繋がる。

「良い肉を、より良い形でお客様に届ける。すると生産者は“もっと良いものを作ろう”となる。その循環が地元のため、そしてお客様のためになっているのです」取材の終わりに千葉さんはそう話しました。
千葉さんが話すのは、岩手のこと、生産者のこと、お客様のこと。「誰かのため」という想いが巡り巡って、[格之進]の熟成肉やハンバーグをおいしくしているのです。近年の国際情勢による穀物価格の高騰やコロナ禍での消費減少など、生産者に逆風が吹く時代。
「島国日本のサステナブルとは、船や飛行機で遠くから運んでくるのではなく、地元に目を向けてそこにあるものを大切に使うこと。それは日本の昔の姿。無いものを作るのではなく、かつてあったものを蘇らせることです」。SDGsが注目されるずっと前から、岩手・一関でそれを実践していた千葉さんの言葉には、強い説得力がありました。
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