2023/06/07 10:00

『自然栽培』と素材の力で世界を変えていく

パラダイスビアファクトリー
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2000年以上の歴史を持つ、鹿島神宮のお膝元で、自家製の麦芽からビールづくりを続ける、[パラダイス・ビア・ファクトリー]の唐澤秀(からさわしゅう)さん。日本はもちろん世界を探してもほとんどないという”農家さんがつくるビール”を生み出しました。誰も挑戦していない未知なるものを恐れず、自ら信じた道へ突き進む唐澤さん。この原動力には『自然栽培』がありました。
※以下、薬や除草剤だけでなく、有機の肥料や堆肥も与えない栽培法のことを自然栽培と表記しています。
「まるで雷に打たれたかのようだった」。衝撃を受けた自然栽培との出合い。

「まるで雷に打たれたかのようだった」。衝撃を受けた自然栽培との出合い。

「いくらおいしいといっても、おいしさにも限度があるでしょう。と、斜に構えていたんですが、自然栽培で育った小松菜を食べたときにはあまりのおいしさに驚いたんです。なんじゃこれってかんじでしたよ。自分の想像をはるかに超えていて、食べた瞬間はまるで雷に打たれたかのようでした」。
大学卒業後勤めていた農業法人での仕事にて、自然栽培との、運命的ともいえる出合いを果たした唐澤さん。その後は「最高においしいもの」を目指して独立し、自らの手で野菜をつくる挑戦をはじめます。
自然栽培とは、農薬や除草剤だけでなく、有機の肥料や堆肥も与えない栽培法。手間暇がかかり効率とは無縁のため、この方法を採用する農家さんは多くありません。でも唐澤さんは「最高のものを知っちゃったんだから、これに挑戦してみるしかない」という強い気持ちで、麦や大豆をはじめとした作物を生産しています。
根気強く耕作放棄地を開墾。ビールづくりで体にも地球にも良い場所を作る。

根気強く耕作放棄地を開墾。ビールづくりで体にも地球にも良い場所を作る。

縁あって茨城県・鹿嶋に畑を借り、『鹿嶋パラダイス』を結成した唐澤さん。夢を抱いて自然栽培を始めますが、ある壁にぶち当たります。それは主な作物である麦や大豆の市場での価値の低さ。同じくらい手間がかかるにも関わらず、麦は米の半分ほどの値段にしかなりません。
大豆はさらにその半値。「いくらおいしいものを作っても、おいしさでは市場価値は上がらない。熱意があっても、赤字で暮らしていけないなら続けられないし、次の世代に自信をもってすすめられないですよね」。
ただ、麦や大豆を育てることで土の中の菌のバランスがよくなり、自然栽培の畑は健康な状態に保たれるので、肥料やたい肥を与えなくてもよい土が出来上がります。麦の栽培は自然栽培の命といっても過言ではありません。そこで唐澤さんは、自ら育てた麦でクラフトビールを醸造する困難な道へ取り組むことに。
イチから生産して販売まで。一貫して行うことで生まれる誇り。

イチから生産して販売まで。一貫して行うことで生まれる誇り。

自信をもって育てた自慢の麦を、自らの手でビールへ。この理想の循環を実現するために4年間ビールづくりの修行を重ねた唐澤さんは、2016年に鹿嶋神社の参道にブルワリーを作ります。一度に仕込める量は、250リットルというとても小さな規模のマイクロブルワリー。
でも素材から一貫して向き合っているからこそ、唐澤さんが理想とする味をとことん追求することを可能にしています。
仕込み水は硬度が高く、ミネラルたっぷりの鹿嶋神宮の御神水を使用。仕込みのたびに、境内から手で汲んでくるという徹底ぶりです。もちろん、ビールの香りづけに欠かせないコリアンダーやオレンジピールもすべて自家製。
世界一から学んだ生き生きとしたものづくりを目指して。

世界一から学んだ生き生きとしたものづくりを目指して。

「勤め人時代に、世界一の称号をもつ生産者さんを訪ねる旅をしていたんです。みなさんに共通していたのは、原料の生産から製造、販売をすべて一貫して自分たちの手で行なっていたこと。例えばスペインの生ハムの生産者さんは、豚のエサを一から栽培していました。
みなさん仕事に誇りをもっているから、目をキラキラさせながら自らの商品を自慢してくるんです。この生き生きとしたものづくりを[パラダイス・ビア・ファクトリー]も目指しています」。
唐澤さんの“おいしさのためなら、手間は厭わない姿勢と情熱”が実を結び、世界五大ビール審査会のひとつ『インターナショナル・ビアカップ』で2018年に見事銀賞を受賞。その後も評価され続けています。
また、大豆を活かすために唐澤さんの大好物だというジェラート、そしてドーナツの販売も開始。[パラダイス・ビア・ファクトリー]から歩いてすぐの場所に[パラダイス ジェラート&ドーナツ]をオープンさせました。

この世に楽園を。関わる人の人生にパラダイスを。

「ビールやジェラートなどの嗜好品は、人をわくわくさせる力を持っていますよね。自分たちのつくるもので、まるでパラダイスにいるような気分になってもらうのが理想」。店名の[パラダイス・ビア・ファクトリー]には、唐澤さんのこんな想いが込められています。
「ビールもジェラートも規模は小さいからこそ、自分の意思で決められるのが一番のメリット。“こうしよう”と思ったらすぐに切り替えて、理想の味を追求できます。トライアンドエラーを繰り返すことで、生産している自分たちだけでなく、まわりの人たちの人生を豊かにしていけるんです」。
「環境への負荷が掛かるような大量生産、大量消費を続けていては、パラダイスではなくなってしまう。持続可能な世界にしていくために、黒を白に変えていくオセロのように自然栽培をどんどんと広げていきたい。それが今の使命です」。”おいしい”を追い求めることが、人生に広がり与え、サステナブルにも繋がることを、唐澤さんは身をもって感じています。
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2023/04/18 09:00

「年齢、国籍、信条に関係なく皆で一緒に食べたい」。[エイタブリッシュ]のヴィーガンスイーツ。

[エイタブリッシュ]のヴィーガンスイーツ。イメージ1
[エイタブリッシュ]のヴィーガンスイーツ。イメージ2
[エイタブリッシュ]のヴィーガンスイーツ。イメージ3
[エイタブリッシュ]のヴィーガンスイーツ。イメージ4
カラフルでおしゃれなパッケージに、ずっと眺めていたくなるような可愛らしい形のクッキー。東京・南青山でパーラーを運営する[エイタブリッシュ]のスイーツは、自分へのご褒美や手土産として幅広い層から愛されています。実は、ここで提供しているスイーツはすべてヴィーガン(完全菜食)。[エイタブリッシュ]では2000年の創業当時から卵、バター、ミルクなどの動物性食材を一切使用しない商品を提供してきたといいます。
「見た目が美しいのはもちろんのこと、食材の制限のある方々でも安心して食べられて、かつ、おいしさも兼ね備えたヴィーガンフードを販売したかった」と話すのは、代表の川村明子さん。今でこそヴィーガンという考え方が日本にも浸透していますが、なぜ、20年以上前にこうしたスタイルのスイーツを展開しようと思ったのでしょうか。川村さんに話を伺いました。
キャリアのスタートはデザイナー。ふとしたきっかけから飲食店経営者に。

キャリアのスタートはデザイナー。ふとしたきっかけから飲食店経営者に。

もとはデザイナーとして活躍していた川村さん。彼女が飲食店経営者となったきっかけは、仕事を通じてインテリアショップ『TIME&STYLE』代表の吉田龍太郎さんと出会ったことでした。彼が青山に新しい飲食店をオープンする際、一緒に運営しないか」と川村さんに声をかけてくれたのだといいます。
何人かで集まってお店のコンセプトを考えるうちに出たのが「ヴィーガンメニューにしよう」というアイデア。「私自身はヴィーガンではありませんが、ヴィーガンメニューにすることによって宗教、思想にかかわらず誰でも同じ食卓を囲めるという趣旨にはものすごく共感しました」と、川村さんは当時を振り返ります。「やるからには店の内装も洗練させたかったし、ただヴィーガンメニューにするだけでなく、味もちゃんとおいしいものにしたかった。なんでも徹底的にやらないと気が済まない性格なんです」。
ヴィーガン、グルテンフリー。目指したのはユニバーサルフード。

ヴィーガン、グルテンフリー。目指したのはユニバーサルフード。

「誰でも同じ食卓を囲める」。日本に住んでいるとなかなか気づかない視点ですが、世界を見渡すと、さまざまな理由から、完全菜食の方や特定の動物を食べない方はたくさんいます。たとえば味噌汁ひとつとっても、出汁に煮干しが使われていればヴィーガンの人は食べません。「同じ食卓を囲む」というのは実はとても特別なことなのです。
だからこそ、川村さんにとって動物性食材を使用しないメニューの開発は意味がありました。そして、現在ではさらに一歩踏み込み、アレルギーのある人にも配慮したグルテンフリーの商品も増やしています。「約8割のスイーツは小麦や大麦、ライ麦やオーツ麦などを使用していません。食事制限のある方も、ない方も、みんなが一緒に楽しめる商品を提供していきたいと考えています」。
[Cafe8]から[エイタブリッシュ]へ。

[Cafe8]から[エイタブリッシュ]へ。

2000年にオープンした当時の店名は[Cafe8]で、メニューも現在とは異なりました。スイーツも作り始めたのは15年ほど前のこと。さらに、現在のようにパッケージ化したクッキーにも力を入れ始めたのは、コロナ禍となる直前の2019年頃でした。
インターネットで全国のおいしいものが買えるようになるなど食の在り方が変容していくなか、川村さんは「これからはお客様に食べに来ていただくことが主の時代ではなくなる」と感じていたそう。スイーツであれば全国、世界中どこにでも持っていけるし、長持ちする。そんな想いからパッケージフードの準備を進めていたといいます。都内百貨店の地下食品街にテイクアウト専門店をオープンさせたのは、奇しくも最初の緊急事態宣言の3日後。そして2020年6月、ヴィーガンレストランからパーラー[エイタブリッシュ]リニューアルしました。
柔軟さも大切。時と場合に応じて、上手にプラスチックを取り入れる。

柔軟さも大切。時と場合に応じて、上手にプラスチックを取り入れる。

社会を広い目で見渡して課題を発見し、自分のアイデアを通じてその解決に取り組もうとする川村さん。常温長期保存食品シリーズ『OhBRAVO』にも、独自の発想が盛り込まれています。「サステナブルな視点から考えると、プラスチックの使用は慎重にならなければなりません」と前置きをしたうえで、川村さんは敢えてこの商品にプラスチックの袋を使用しています。
「ただし、レトルトパックにすることによって半年以上持たせることができ、非常食にもなりうる商品として販売できるのです。環境に良くないからといってプラスチックの使用を避けるのか、人の命を優先するために最小限におさえて上手にプラスチックを使うのか。時と場合によって優先順位が変化することもあるから、私自身も常に柔軟に物事を捉えられるよう心がけています」。

デザイナー視点でサステナブルを考える。

冒頭で紹介したクッキーの入れ物についても、川村さんは考え抜いて作っています。
「お菓子の容器を可愛らしいデザインの缶にすることで、サステナブルにつながるんじゃないかと思っています」と、川村さん。なぜなら、食べ終わった後も捨てずに保存容器として使い続けてもらえるかもしれないから。すると、ゴミの量を削減することにもつながります。
「デザイナーとは、自分達の作品を受け取った方が次にどういうアクションをとるか、何を感じるかということまで想像するものなんです」。
川村さんの話を伺った後あらためて[エイタブリッシュ] のクッキーを眺めてみると、見た目が可愛いくて、かつ、サステナブルで、しかも多様性を認める懐の広ささえ感じられるようになってきました。川村さんのように柔軟な姿勢で社会の課題を解決していけたら、こんなに素敵なことはないのかもしれません。
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2023/04/18 09:00

美しい田園風景を次世代につなぐ。自然と共存する[フクハラファーム]の米作り。

フクハラファーム
フクハラファーム
フクハラファーム
フクハラファーム
滋賀県彦根市南部の[フクハラファーム]は、本州最大規模となる約200ha(甲子園球場約52個分)の農地で米作りを行う農業法人です。琵琶湖のほとりで栽培するため水不足に悩まされないことを強みとし、品質が安定した丈夫なお米を育てています。さらに、飛騨山脈からの風が田んぼを吹き抜けていくため風通しが良く、農作物が病気になりにくいこともこの土地の特長です。まさに、豊かな自然が育てたお米。見た目は透き通るように白くつやつやで、食べればもっちりとした食感に魅了されることでしょう。なんといっても甘くて風味が強いのです。一体、どのようにしてこのお米は作られているのでしょうか。稲刈りの様子を見学させていただきました。
自分の愛する風景を守りたい。創業者の思いを引き継ぎ、『守る農業』に取り組む。

自分の愛する風景を守りたい。創業者の思いを引き継ぎ、『守る農業』に取り組む。

フクハラファームに伺ったのは10月初旬。よく晴れた空の下、金色に輝く稲穂がサラサラと音を立てながら風になびいていました。二代目社長の福原悠平さんはこう語ります。「創業者で父の昭一は、自分の生まれ育ったふるさとの景色が変わりゆく中で、なんとしても田園風景を守り、未来へとつなげたいと思ったそうです。
そこで、勤めていた会社を退職し、1995年に[フクハラファーム]を設立して専業農家となりました」。創業から一貫して大切にしているのは、安全・安心な農産物を育てることと、農業を通して地域社会へ貢献すること。こうした理念から減農薬・減化学肥料栽培を実施し、約200haの農地の内、3割程度は『滋賀県環境こだわり農産物』認証を取得しています。
随所に光る職人技。素材本来のおいしさを引き出した、毎日でも食べられる自然な味。

環境へのやさしさを追求した『アイガモ農法』。

さらに、20年近く前から『アイガモ農法』に取り組んでいます。これは、5月下旬から7月にかけてアイガモを田んぼに放ち、アイガモを泳がせることで水を濁らせながら雑草の発生を抑え、かつ、アイガモの糞尿を肥料とする栽培方法です。
また、一部の田んぼでは「3年以上継続して農薬と化学肥料を使用しない」などの厳しい基準をクリアした有機JAS認証を取得しています。
こうした自然に寄り添った米作りを行う一方で、最先端技術の導入にも積極的です。ロボットトラクターを導入しているほか、栽培データの収集やAIを使った実証実験など大学との共同研究にも参加し、作業を効率化して人への負担を減らすための努力もしています。
化学肥料を減らすため近隣の畜産農家と連携。地域内での循環型農業を目指す。

化学肥料を減らすため近隣の畜産農家と連携。地域内での循環型農業を目指す。

また、[フクハラファーム]の敷地の付近を車で走っていると、畑の真ん中に小さな土の山のようなものが見えてきます。「近隣の畜産農家から集めた家畜の堆肥の野積みです」と、悠平さん。これらの堆肥を提供してもらいながら土づくりを行うことで化学肥料の使用をおさえ、かつ、地域内での循環型農業へとつなげているのです。
「堆肥は家畜の糞を発酵させて作りますが、匂いが出てしまうことが欠点でもあります。私たちのように広い敷地をもっていて、民家や店舗など人の生活空間と距離を保つことができる生産者だからこそできる取り組みです」と、悠平さんは続けます。自社の強みを活かして地域に密着した米作りを行う。これも、フクハラファームが創業以来大切にしていることの一つだといいます。
父の想いを受け継ぐことが、サステナブルな農業を実現する。

父の想いを受け継ぐことが、サステナブルな農業を実現する。

稲刈りの見学を終え[フクハラファーム]の事務所に戻って来ると、入り口の看板に書かれたこんな言葉に目が留まりました。『美田悠久(びでんゆうきゅう)』。日本の美しい田園=美田を未来永劫悠久につなげていく『守る農業』を実践する、という[フクハラファーム]の理念を表す造語です。
「自然のなかで仕事をする以上、できるだけ環境に負荷を与えないことが重要です。この環境を守らなければ、父が愛した田園風景が消えてしまうだけでなく、将来、必ず自分たちが困ることになる。農薬を極力使わないようにすることが豊かな自然を守り、最終的には自分たちの農業を持続可能なものにすると考えています」と、悠平さん。帰りに琵琶湖線の列車から見えるフクハラファームの田んぼの稲穂が、夕焼けの景色のなかでより一層輝いて見えました。
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