2023/04/18 09:00

親子3代で紡ぐ、おいしい牛乳をめぐる物語。

ミルク工房そら
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京都駅から電車でおよそ3時間。日本海に面し、息をのむような美しい自然に囲まれた京丹後市・久美浜町に[ミルク工房そら]はあります。近畿最北端のこの地に酪農という文化を根付かせ、「酪農王国にしたい」という想いを抱えて創業してから約70数年。今では、たくさんのシェフらからの熱視線を集めるだけでなく、全国各地から人が訪れる工房に。おいしい牛乳を届けるために、創業者の孫である平林学さん一家は、ジャージー牛へ愛情をたっぷり注いでいます。
大量生産、大量消費ではなく、顔が見えるものを届けたい。

大量生産、大量消費ではなく、顔が見えるものを届けたい。

[ミルク工房そら]の前身である『平林乳業株式会社』は、平林学さんの祖父が、終戦から数年経ったある日に1頭のジャージー牛を引き取ったことにはじまりました。さらに小学校の廃屋を譲り受けて手作りの処理場を建て、牛乳屋さんとして出発。牛の世話から、草刈り、田んぼの作業まで、家族で毎日休まず作業したそうです。
経済が発展し、世が大量生産、大量消費の時代に突入する中、2代目にあたる学さんの父・衛さんご夫婦は、そんなただ生産を続ける毎日に疑問を感じ始めます。
「このまま大量生産・大量消費によって生産者の顔が見えないものを作り続けていていいのだろうか。生産者の顔が見える、おいしい牛乳を皆さんに届けたい。牛乳の価値をもっと高めたい」と。この熱意のもと、今から20年ほど前に牧場と同一敷地内に[ミルク工房そら]をオープンさせました。訪れた方に生産者たちのありのままの様子を知ってもらえるだけでなく、搾りたての牛乳をチーズやジェラートなどに加工し、販売できる環境を整えたのです。
大阪でアパレル関係の仕事に就いていた学さんが家業を継ぐために戻ってこられたタイミングで、牛乳を加工したチーズをたっぷりと使用したピザを提供するカフェを併設することになり、より地域の人に愛される場所として進化を遂げています。
愛情を込めて育てることがおいしい牛乳につながっていく。

愛情を込めて育てることがおいしい牛乳につながっていく。

[ミルク工房そら]に隣接する『丹後ジャージー牧場』では、現在40頭のジャージー牛が育てられています。一般的なホルスタイン牛に比べると乳量が少なく、生産効率が悪いと考えられているため、日本ではあまり飼育されていない珍しい品種です。
ただ、ジャージー牛の乳脂肪分は5%、無脂乳固形分は9%と濃厚でβカロテン含量が高いため、おいしい牛乳を届けるためにはジャージー牛はとても大切な存在。「効率ではなく、大事なのは牛乳の味」だと学さんはおっしゃいます。
ここではすべての牛たちを家族の一員として、愛情を持って育てています。自然に近い環境で極力ストレスがかからないよう考慮するだけではなく、一頭一頭のエサをチェックし、体調管理も欠かせません。「この子たちも、わたしたちの家族。だから名前もつけてかわいがっているんです」
「家族の一員である牛たちから生まれた牛乳は大切な宝。それらを無駄にせず、より価値の高いものに生まれ変わらせて還元したいという気持ちで、[ミルク工房そら]で、ジェラート、ミルクジャム、チーズなどに加工しています」。
「宝である牛乳を一滴も無駄にしたくない」。牛乳をより価値のあるものへ。

「宝である牛乳を一滴も無駄にしたくない」。牛乳をより価値のあるものへ。

「牛乳はなまものなので日持ちがしません。一番おいしい搾りたての状態を飲んでもらいたいと願っても、全国にお届けするのは難しい。牛乳を一滴も無駄にしたくない、そして牛乳の新たな魅力を知ってもらいたいという想いを込めて、毎朝搾りたての牛乳を使って、工房ではさまざまな加工品を作っています」。
工房を訪れる人たちが必ずといっていいほど注文するのが、余計なものを一切加えずに作る『ジェラート』。ミルク味は、よりダイレクトに自慢の牛乳の味を感じて欲しいから、牛乳、生クリーム、砂糖しか使っていないという徹底ぶりです。
いちごや抹茶など、地元京丹後の食材を組み合わせたものも大人気。お店にはおよそ10種類ほどのフレーバーがあり、季節限定品や新製品も続々登場するそう。「一緒に働いているメンバーからアイデアをもらうことが多いです。地元の特産物と、我々の牛乳がうまくマッチするようなレシピを考えてくれるので頼りにしています」。
『ミルクジャム』は、工房のロングセラー商品。搾りたての牛乳を6時間以上混ぜながら加熱し、なめらかなキャラメルクリームのようにしていきます。「加熱しすぎると分離してしまうので、職人さんの見極めが必要なんです」。
牛乳というすばらしい素材にあぐらをかくことなく、職人さんたちの妥協を許さない心を集結させて、商品を作り続けています。
「京丹後の生産者さんたちと関係を深め、ストーリーのあるものを作っていきたい」。

「京丹後の生産者さんたちと関係を深め、ストーリーのあるものを作っていきたい」。

かつては、酪農という仕事や、この京丹後が嫌いだった学さん。「どこにいっても牧場の息子としてみられるし、田舎ですしね(笑)。地元が嫌で、“真逆なことがしたい”と、家業とは全く異なる仕事に就いたんです。でも、野生の牛が歩いているようなイタリアの田舎町を旅した際、その土地で採れた食材を使った料理を食べて感動していたら、故郷の風景が目に浮かんできたんですよ。
豊かな自然に恵まれておいしい食材の宝庫である京丹後でも、このような体験ができるんじゃないかって。うちのチーズや地元の食材を、料理人に調理してもらえたら、より地元が盛り上がるんじゃないかと」。
京丹後に戻り、家業を継ぐことになった学さんは、イタリアンやフレンチのシェフ、農家さんなど地元で活動する方々と交流を深め、知見を広げていきます。「同世代の方も多く、刺激になりますよ。例えば、うちのチーズに合うナチュラルワインや、ジェラートに合う野菜や果物を教えてもらうと今まで以上に牛たちへの愛情も深まっていきますし、一緒に働いている工房のメンバーへの尊敬の気持ちも強くなります。同じような感度の人と出会えたから、故郷を好きになれたんだと思います」。
「地元が嫌いで飛び出した過去があるからこそ、今後はもっと京丹後で暮らす自分たちにしかできないようなものを生み出して発信していきたいですね。大量生産はできないけれど、よいものを作って、届けるべき相手にきちんと届けたい。それが、自分の使命だと感じています」。
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