日本最大で最古の淡水湖、琵琶湖の特徴的な魚介類『琵琶湖八珍』を広める活動をしている日本料理店[魚繁大王殿(うおしげだいおうでん)]。取り組みの一環として、二代目店主の岩崎勝さんを中心に立ち上がったプロジェクトが、その魚介類を使った食品『琵琶湖八珍 隠れシリーズ』の開発です。
現在はだし醤油、ポン酢、あられ、ドレッシングが商品化され、店頭やECサイトなどで販売中。では、『琵琶湖八珍』の種類やそれぞれの特徴とは。そして岩崎さんはどんなきっかけでプロジェクトを立ち上げ、一つひとつの商品を作っているのでしょうか。お店がある滋賀県東近江市を訪れ、地元の恵みや食文化への熱い想いを聞きました。
現在はだし醤油、ポン酢、あられ、ドレッシングが商品化され、店頭やECサイトなどで販売中。では、『琵琶湖八珍』の種類やそれぞれの特徴とは。そして岩崎さんはどんなきっかけでプロジェクトを立ち上げ、一つひとつの商品を作っているのでしょうか。お店がある滋賀県東近江市を訪れ、地元の恵みや食文化への熱い想いを聞きました。
東近江に根差して半世紀以上。“温故知新”を掲げて地元の恵みと食文化を今に伝える。
[魚繁大王殿]の創業は1970年。東近江・太郎坊宮(阿賀神社)の麓に開いた、『すし屋・魚繁』がルーツです。当時の高度経済成長に伴い会食や宴会需要が増え、やがて会席なども供する日本料理店となりました。以来約半世紀、地元生産者とのつながりを大切に、郷土の恵みと食を伝えて今に至ります。
そして現在、初代の岩崎繁さんとともに同店を率いるのが二代目の勝さん。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、世界中にその魅力が広がる一方、国内では日本料理離れが進んでいるのも事実。そんな現状を好転させるべく、同店で掲げている理念のひとつが“温故知新”。伝統的な素材や調理法を積極的に取り入れたり、郷土料理を提供したり、食文化を大切にしながらおいしさを届けています。
『琵琶湖八珍』を商品化して魅力を発信し、琵琶湖の水産業を盛り上げる。
特に力を注いでいるのが『琵琶湖八珍』の認知拡大。これは琵琶湖を代表する魚介類のことで、ホンモロコ、スジエビ、ウロリ(ゴリ)、ハス、ビワマス、コアユ、ニゴロブナ、イサザの計8種で構成されています。琵琶湖は周囲の比良山地と鈴鹿山脈の栄養豊富な水脈によって、生き物がふくよかに育つ環境。
ただ、湖魚は琵琶湖でしか獲れないため海水魚より高価で、地元や京都などの高級料亭でしかほとんど扱われていません。一方、食の多様化や国際化などによって和食離れが進み、湖魚料理はますます珍しいものに。需要減とともに漁獲量も下がり、漁師や漁業関係者も減少。琵琶湖に関わる水産業は多くの課題を抱えており、その解決策として岩崎さんは『琵琶湖八珍 隠れシリーズ』の開発を思い立ったのです。
琵琶湖固有種の中でも人気のホンモロコ。力強い旨みを生かした渾身のだし醤油。
シリーズ第1弾の素材に選んだのは、琵琶湖固有種の中でも人気が高いホンモロコ。体長12cmほどに育ち、おいしさにも定評があるコイ科の高級魚です。旬は冬~春で、特に子持ちのホンモロコは美味で有名。素焼きのほか、佃煮、煮つけ、天ぷらなど調理法も幅広く、滋賀の郷土食『なれずし』にすることも。
このホンモロコの旨みを生かし、開発に2年をかけ2018年に完成したのが、だし醤油『もろこ隠れ』です。今でも仕込みは岩崎さん自らが担当。お店の厨房で香ばしく焼き上げたらすぐに、地元で1853年創業の老舗『水谷醤油醸造場』の濃口と薄口の醤油で炊き込み、湖魚ならではの奥深い風味を移していきます。そして、炊き上げたあとのホンモロコは丸1日かけて乾燥させ、1匹まるごとだし醤油の中に。
ポン酢醤油やドレッシングなどバリエーションを拡充。2025年のフルラインナップを目指す。
岩崎さんが第2弾に選んだのはスジエビ。体長2~4cmの小型なエビで、熱を入れた際の鮮やかな色味と、滋味深い香ばしさやエビみその甘みが特徴です。こちらは乾燥させたのち、弱火で煎りながらすりつぶして旨みを凝縮。爽やかなレモンを効かせ、エビの風味と酸味が調和した個性あふれるポン酢醤油『えび隠れ』を生み出しました。
そして第3弾はハゼ科の小型種、ウロリの稚魚を使い地元の『のむら農園』と協力して作った米菓あられ『うろり隠れ』。第4弾は、コイ科では珍しい魚食性のハスを使ったドレッシング『はす隠れ』を商品化。「2025年までに、『琵琶湖八珍』すべてを商品化させるという計画を立てました。簡単なことではないですが、一つひとつ丁寧に作っていきます」と、岩崎さん。その挑戦はこれからも続きます。
琵琶湖には知られざる美味がある。郷土の原風景に想いを馳せて。
日本料理を生業とする家に生まれ、琵琶湖をはじめとする雄大な自然の中で育った岩崎さん。京都調理師専門学校を卒業後、京都と滋賀の日本料理店で修業を重ね、料理人として成長するにつれ強くなった想いが、地元の自然と先人への感謝、そして郷土の原風景に対する憧憬だったそう。「私は子どものころから琵琶湖や近所の川でよく遊んでおり、釣った魚を家で食べることもありました。このように地のものを自らとって味わったり、そうでなくても故郷の食や自然に触れたりという経験は、どなたにでもあると思います。その想いを共有したいという気持ちも、今回のプロジェクトを立ち上げた理由のひとつ。琵琶湖は全国的に有名ですが、そこには知られざる美味もあるということを、多くの方に知っていただけたらと思います」。
日本特有の「いただきます」には作り手と食材へ、ふたつの感謝が込められているといいます。とりわけ、食材への感謝は自然への敬意ともいえるでしょう。岩崎さんの言葉は、日本が世界に誇る文化「和食」の尊さをも再認識させてくれます。