三陸の港町・気仙沼は、ヨシキリザメ、モウカザメ、アオザメなどサメの漁獲量日本一を誇る「サメの町」。古くから、フカヒレに、ちくわにと、サメを活用する文化が受け継がれてきました。1957年創業の[石渡商店]は、当時捨てられてしまっていた小さなヒレも大切に加工し、美味しいフカヒレとして世に送り出したいと設立されました。以来、中国料理の高級食材としてごく一部の人が味わっていただけのフカヒレを、和食店や一般家庭でも楽しめるようにと、バラエティ豊かなフカヒレ商品を生み出してきました。さらに近年は、三陸名産の牡蠣を使ったオイスターソースも評判となっています。
その生産現場を訪ねました。
その生産現場を訪ねました。
気仙沼で廃棄されるフカヒレを見過ごせない、という初代の決意。
気仙沼港から車で10分ほどのところにある[石渡商店]の工場では、生のサメのヒレから皮や骨、肉を取り除く『素剥(すむき)』の作業が急ピッチで行われていました。通常、サメには7カ所にヒレがあります。フカヒレの姿煮でイメージされる大きな尾ビレや背ビレ以外にも、小さな腹ビレや尻ビレもあります。
[石渡商店]では大きなヒレだけでなく、そのような小さなヒレも大切に加工しています。そもそも、初代・石渡正男さんは「海の恵みを大切に、食文化を創造する」をテーマに掲げ、この小さなヒレを活用しようと、神奈川から移住してきたそうです。
「大手食品メーカーで研究員をしていた祖父の正男は、気仙沼の港で小さなフカヒレが捨てられていることを知り、それを活かした商品を作りたいと考えて起業したんです」と三代目の代表取締役社長・石渡久師(いしわたひさし)さんは話します。
「大手食品メーカーで研究員をしていた祖父の正男は、気仙沼の港で小さなフカヒレが捨てられていることを知り、それを活かした商品を作りたいと考えて起業したんです」と三代目の代表取締役社長・石渡久師(いしわたひさし)さんは話します。
捨てられてしまっていた食材に、技術を駆使して新たな価値を。
創業当時、小さなフカヒレは加工が難しく、価値がないものとして廃棄されていました。初代は技術によってそこに価値を生み出せると強い信念を持っていました。サメの体は、楯鱗(じゅんりん)と呼ばれる非常に硬い鱗で覆われています。その特殊な鱗は象牙質をエナメル質が覆った構成で、歯のように硬く、刃物も跳ね返してしまいます。
正男さんは諦めることなく、試行錯誤の末に、コラーゲンを最大限に留めた独自製法『素剥』を開発し、小さなヒレでも食用に使う方法を確立。この“スムキ”は今では業界用語として使われるほど、一般的な製法となっているそうです。
「フカヒレの処理工程は、機械化できる部分が一切なく、すべてが手作業で行われます。職人技によって1枚1枚とにかく丁寧に。それが、フカヒレ加工の最も大切なポイントです」と石渡さんは、美しい純白に仕上がったフカヒレを見せてくれます。
「フカヒレの処理工程は、機械化できる部分が一切なく、すべてが手作業で行われます。職人技によって1枚1枚とにかく丁寧に。それが、フカヒレ加工の最も大切なポイントです」と石渡さんは、美しい純白に仕上がったフカヒレを見せてくれます。
持続可能な漁業とフードロス解決の努力も全力で。
[石渡商店]では持続可能な海洋資源の活用に力を入れています。気仙沼産のヨシキリザメは持続可能な漁業で獲られたものを厳選。ヒレは全体のわずか10%に過ぎません。ヒレを取ったあとの身は、すり身業者などに無償提供し、良質なグルコサミンやコンドロイチンなどを含む骨は、サプリメントに活用しています。
内臓も加工品になるほか、使えない部分も肥料や飼料になります。捨てるところいえば、先述の楯鱗くらいとのこと。丸ごと無駄なく使い切っているのです。[石渡商店]には一般家庭でも気軽に楽しめるフカヒレ商品がたくさんあります。
『濃縮ふかひれスープ』は高級中華料理店の協力のもと、鶏、豚のガラから旨みを引き出したスープに厳選した調味料で深みを加えた逸品。溶き卵を入れていただくと、より豊かな味わいを楽しめます。また、フカヒレ入りの贅沢なスープの素として、幅広く活用できる使い勝手の良さも評判です。
『濃縮ふかひれスープ』は高級中華料理店の協力のもと、鶏、豚のガラから旨みを引き出したスープに厳選した調味料で深みを加えた逸品。溶き卵を入れていただくと、より豊かな味わいを楽しめます。また、フカヒレ入りの贅沢なスープの素として、幅広く活用できる使い勝手の良さも評判です。
質は良くなるのに市場価値は下がる。春の生食用牡蠣の真価に光を当てる。
フカヒレと並ぶ[石渡商店]の主力商品に『気仙沼完熟牡蠣のオイスターソース』があります。これは「海の恵みを大切に、食文化を創造する」というミッションに立ち返ることで誕生しました。契機は2011年の東日本大震災。
海辺にあった[石渡商店]は津波ですべてを流され、一からの再建に取り組みます。民間ファンドを活用して資金調達し、山手に工場を新設することができました。その出資者2,600人にアンケートを取ったところ、出資理由の大半が「気仙沼の水産業復興のため」であることがわかったのです。そこで、地域でその価値が見過ごされている水産物の洗い出しを行いました。
宮城県は広島県に次いで牡蠣の生産量全国2位。しかし、そのほとんどが生食用であるため、11月をピークに、産卵を前に栄養をたっぷり蓄えて大粒に育つ春には、品質に見合わない価格になってしまっていました。石渡さんはこの最高の生食用の牡蠣で、漁師と共に今までにない加工品を作ることを決意します。それがオイスターソースだったのです。
宮城県は広島県に次いで牡蠣の生産量全国2位。しかし、そのほとんどが生食用であるため、11月をピークに、産卵を前に栄養をたっぷり蓄えて大粒に育つ春には、品質に見合わない価格になってしまっていました。石渡さんはこの最高の生食用の牡蠣で、漁師と共に今までにない加工品を作ることを決意します。それがオイスターソースだったのです。
大粒に育った『もまれ牡蠣』のみを使用。
気仙沼・唐桑の『もまれ牡蠣』は、季節ごとに潮の流れが速い場所に何度も移動させ、潮にもまれて育ちます。さらに、船上で60度前後のお湯を沸かし、クレーンで吊るした牡蠣を数分浸ける温湯処理を行うのも特徴的です。殻に付いた牡蠣以外の生物をお湯で駆除することで、牡蠣は植物プランクトンを存分に摂取し、大粒で味も濃厚に育つのです。『気仙沼完熟牡蠣のオイスターソース』は、漁師が手間ひまをかけて育てた3~5月下旬の生食用もまれ牡蠣だけを使用。一般的には牡蠣を煮てエキスを抽出しますが、[石渡商店]では独自特許製法(特開2016-005450)の酵素分解により牡蠣の身をすべてソースに溶け込ませます。ゴミとなる出汁ガラを出さず、栄養はたっぷり。化学調味料や保存料、着色料などの合成添加物を一切使わず、海の恵みをそのまま閉じ込めているのです。炒め物などの調味料に使えば一気にプロの味に。そのまま卓上に置いてディップとして使えば、小粋なパーティメニューにもなります。その際立つ滋味を、ご賞味あれ。。