滋賀県彦根市南部の[フクハラファーム]は、本州最大規模となる約200ha(甲子園球場約52個分)の農地で米作りを行う農業法人です。琵琶湖のほとりで栽培するため水不足に悩まされないことを強みとし、品質が安定した丈夫なお米を育てています。さらに、飛騨山脈からの風が田んぼを吹き抜けていくため風通しが良く、農作物が病気になりにくいこともこの土地の特長です。まさに、豊かな自然が育てたお米。見た目は透き通るように白くつやつやで、食べればもっちりとした食感に魅了されることでしょう。なんといっても甘くて風味が強いのです。一体、どのようにしてこのお米は作られているのでしょうか。稲刈りの様子を見学させていただきました。
自分の愛する風景を守りたい。創業者の思いを引き継ぎ、『守る農業』に取り組む。
フクハラファームに伺ったのは10月初旬。よく晴れた空の下、金色に輝く稲穂がサラサラと音を立てながら風になびいていました。二代目社長の福原悠平さんはこう語ります。「創業者で父の昭一は、自分の生まれ育ったふるさとの景色が変わりゆく中で、なんとしても田園風景を守り、未来へとつなげたいと思ったそうです。
そこで、勤めていた会社を退職し、1995年に[フクハラファーム]を設立して専業農家となりました」。創業から一貫して大切にしているのは、安全・安心な農産物を育てることと、農業を通して地域社会へ貢献すること。こうした理念から減農薬・減化学肥料栽培を実施し、約200haの農地の内、3割程度は『滋賀県環境こだわり農産物』認証を取得しています。
環境へのやさしさを追求した『アイガモ農法』。
さらに、20年近く前から『アイガモ農法』に取り組んでいます。これは、5月下旬から7月にかけてアイガモを田んぼに放ち、アイガモを泳がせることで水を濁らせながら雑草の発生を抑え、かつ、アイガモの糞尿を肥料とする栽培方法です。また、一部の田んぼでは「3年以上継続して農薬と化学肥料を使用しない」などの厳しい基準をクリアした有機JAS認証を取得しています。
こうした自然に寄り添った米作りを行う一方で、最先端技術の導入にも積極的です。ロボットトラクターを導入しているほか、栽培データの収集やAIを使った実証実験など大学との共同研究にも参加し、作業を効率化して人への負担を減らすための努力もしています。
化学肥料を減らすため近隣の畜産農家と連携。地域内での循環型農業を目指す。
また、[フクハラファーム]の敷地の付近を車で走っていると、畑の真ん中に小さな土の山のようなものが見えてきます。「近隣の畜産農家から集めた家畜の堆肥の野積みです」と、悠平さん。これらの堆肥を提供してもらいながら土づくりを行うことで化学肥料の使用をおさえ、かつ、地域内での循環型農業へとつなげているのです。
「堆肥は家畜の糞を発酵させて作りますが、匂いが出てしまうことが欠点でもあります。私たちのように広い敷地をもっていて、民家や店舗など人の生活空間と距離を保つことができる生産者だからこそできる取り組みです」と、悠平さんは続けます。自社の強みを活かして地域に密着した米作りを行う。これも、フクハラファームが創業以来大切にしていることの一つだといいます。
父の想いを受け継ぐことが、サステナブルな農業を実現する。
稲刈りの見学を終え[フクハラファーム]の事務所に戻って来ると、入り口の看板に書かれたこんな言葉に目が留まりました。『美田悠久(びでんゆうきゅう)』。日本の美しい田園=美田を未来永劫悠久につなげていく『守る農業』を実践する、という[フクハラファーム]の理念を表す造語です。
「自然のなかで仕事をする以上、できるだけ環境に負荷を与えないことが重要です。この環境を守らなければ、父が愛した田園風景が消えてしまうだけでなく、将来、必ず自分たちが困ることになる。農薬を極力使わないようにすることが豊かな自然を守り、最終的には自分たちの農業を持続可能なものにすると考えています」と、悠平さん。帰りに琵琶湖線の列車から見えるフクハラファームの田んぼの稲穂が、夕焼けの景色のなかでより一層輝いて見えました。