2023/05/10 10:00

「十勝の味を、ぎゅっと詰め込む」。北海道[木川商店]

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北海道・とかち帯広空港から車を走らせること30分。雄大で美しい田園風景が広がる道を抜けた先の幕別町に、[木川商店]はあります。昭和初期の創業以来、酒類や海産物、農畜産物、乳製品などを取り揃え、町の人々の暮らしを支えている老舗の商店です。
ここで5年ほど前から販売し始めたのが、手作りのコロッケやメンチカツ。「地元・十勝で生産される食材のおいしさを全国に伝えたい」と話すのは、店長の萩原路代さんです。今でこそ[木川商店]のコロッケやメンチカツは全国の百貨店の催事やイベントで販売されるほどの人気商品になりましたが、もとは、萩原さんが趣味で作っていたおかずにすぎなかったといいます。
どのようにして商品化し、全国から注目を集めるまでに成長したのでしょうか。お話を伺いました。
きっかけは、余ったじゃがいも。生産者のお悩みを解決すべく、町のお祭りでコロッケを販売。

きっかけは、余ったじゃがいも。生産者のお悩みを解決すべく、町のお祭りでコロッケを販売。

北海道は言わずと知れたじゃがいもの名産地。生産量は約168万トンと全国一位を誇ります(※農林水産省「令和3年産春植えばれいしょの作付面積、収穫量及び出荷量」)。
その北海道のなかでも特にじゃがいもの生産が盛んな十勝では、ある課題を抱えていました。収穫量に対して販売量が追いつかず、生産者はじゃがいもを持て余してしまっていたのです。
「近所の生産者さんが『たくさんあるから、どうぞ』と大量のじゃがいもを譲ってくださるので、はじめは趣味でコロッケを作っていたんです。特に理由はないけれど、コロッケを作るのが好きなんです」と、萩原さん。あるとき、「町のお祭りで、コロッケを販売してみようか」と思いついたそう。これが、大好評。たくさんじゃがいもを使ってコロッケを販売すれば、生産者さんの力になれるかもしれない。そんな想いから、本格的な商品化への道のりが始まりました。
「『インカのめざめ』とゆり根を使い、十勝の魅力を全国に伝えたい」。地元への愛をコロッケに詰め込む。

「『インカのめざめ』とゆり根を使い、十勝の魅力を全国に伝えたい」。地元への愛をコロッケに詰め込む。

せっかく作るなら、地元・十勝の魅力を詰め込んだ商品にしたい。そこで萩原さんが選んだのが、『インカのめざめ』という品種でした。メークインや男爵に比べて小ぶりで、鮮やかで濃い黄色の果肉が特徴のじゃがいもです。
なんといっても魅力的なのは、その甘さ。熱を加えればさらにこっくりとした甘みと旨みが増します。
「『インカのめざめ』と並んで十勝でたくさん栽培されているのが、ゆり根です」と、萩原さん。「ゆり根も、火を通すと『インカのめざめ』と同じくらいにほっくりと甘くなるので、この二つを掛け合わせてコロッケにしたら最高の味になるのではないかと思いました」。それからは、ひたすら試作を重ねたといいます。
食べて、揚げて、試行錯誤の日々。全国から愛される冷凍コロッケができるまで。

食べて、揚げて、試行錯誤の日々。全国から愛される冷凍コロッケができるまで。

『インカのめざめ』とゆり根の甘く濃厚な味わいを生かすために、材料はこの二つに絞ったそう。もちろん、肉も入れません。また、ゆり根はあえてザクザクと大きめに切って練り込み、コロッケの断面から白い姿が見えるようにしました。
「形を残すことで、見た目が美しくなるだけでなくほっくりとした食感が生きるのです」と、萩原さんのこだわりが伝わってきます。
さらに、お客様が揚げる手間を省くためにサクサクに揚げた状態で急速冷凍します。「オーブンとレンジを並べて試作を繰り返し、どのように温めてもおいしく食べていただけるレシピを考えました」。こうして、温めるだけで簡単に食べられる木川商店の冷凍コロッケ『ゆり根とインカ』が誕生したのです。
食べて、揚げて、試行錯誤の日々。全国から愛される冷凍コロッケができるまで。

コロッケがあるなら、メンチカツも。十勝のブランド豚『どろぶた』の魅力を発信する。

「コロッケの商品化に成功すると、メンチカツも作ってみようという意欲がわいてきました」と、萩原さん。材料に選んだのは、[木川商店]と同じく幕別町に拠点を置く『エルパソ牧場』で放牧されて育ったブランド豚『どろぶた』でした。
放送作家の小山薫堂さんがこの牧場を訪れたとき、豚が自由に走り回り、泥の中でコロコロ転がって遊んでいる様子を見て『どろぶた』と名付けたといいます。
味はというと、ミネラル分やオレイン酸が豊富に含まれており、旨みが濃いのが特徴です。
木川商店ではこうした特徴を生かしながら、サクサクでジューシーな『どろぶたメンチカツ』を開発しました。その後も、長いもやアスパラ、ラクレットチーズなど、十勝の食材を使いながらコロッケ・メンチカツのラインアップを増やし続けています。

趣味で作っていたコロッケから始まった、サステナブルなストーリー。

「持続可能な社会を実現するためには、まず、無理をせずにできることから始めていくことが大切です。なぜならば、無理をしても続かないから」。萩原さんは、生産者が抱えていた課題と、自分の好きなことを上手に結びつけて、食品ロスの削減を実現しています。そんな萩原さんの姿勢には「身近なところからアクションを起こすこと」のヒントが詰まっているようにも感じられます。
「北海道・十勝は畑作や酪農を中心に産業が盛んなエリアです。私たちは採れたて・できたての新鮮な食材を生産者から直接仕入れ、自社で加工・販売しながら地域の活性化に貢献していきたいです」と、萩原さん。彼女を突き動かしているのは、地元への強い愛なのでしょう。
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