SPECIAL TALK オープン記念特別対談
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[京洋菓子司 一善や]創業者中村 健二郎さん
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[玉乃光]副社長羽場 陽介さん
惚れ込んだ酒粕と無花果で、
最後の「作品」をのこしたい。
和の心を生かした洋菓子を京都から発信する[京洋菓子司 一善や]と、今年創業350周年を迎える老舗酒造[玉乃光酒造]が、WACOAL SPOONでのみ販売されるオリジナルケーキ『黒無花果と加加阿』を発表することに。[京洋菓子司 一善や]の創業者である中村健二郎さんが長年向き合ってきた「引き算」の哲学と[玉乃光酒造]の酒粕が深く共鳴し合ったケーキはなぜ生まれたのか。ドラマチックな物語を紐解いていきます。
「この酒粕があれば、自分の信念が遂げられると確信した」。
[一善や]創業者兼パティシエ・中村健二郎さん(以下 中村さん)京都・白川の地で開業してもう30年になりますが、私はもともと製薬会社で働いていたんですよ。はじめて働いた会社が製薬会社だったこともあって、ずっと「社会に貢献したい」「体にいいものを作りたい」という信念を持ち続けていたんです。
ただ、洋菓子は脂肪たっぷりの生クリームや砂糖を使うのでヘルシーとは言えないんです(笑)。このお店をそろそろ引退しようと考えているタイミング※で、我が洋菓子人生の最後には、自分の想いが詰まったウェルビーイングなケーキを作りたいと考えました。
※中村さんは、2023年に[一善や]を引退。現在は、[一善や]顧問として在籍。
[玉乃光酒造]副社長・羽場洋介さん(以下 羽場さん)
そこでうちの酒粕に目をつけてくれたんですね。酒粕の香りを生かした商品はたくさんありますけど、酒粕の持つ酵母の力を使ったケーキは珍しいですよね。
中村さんそうなんです。酒粕を味付けとして考えるのではなく、酒粕のもつ酵母の力や旨みに着目しました。もともと[玉乃光酒造]さんの大吟醸の酒粕は個人的によく使わせていただいていて「他の酒粕とは一線を画すもの」だと感じていたので、ぜひ力をお借りしたいと考えたんです。酒粕との出合いがなかったら、生まれていなかったケーキです。
羽場さん酒粕に真正面から向き合ってくれているのが、伝わってきて嬉しいです。
酒粕の発酵する力を信じたからこそ、辿り着いた理想の味。
中村さんの理想とするウェルビーイングなケーキを実現するためには、酒粕はなくてはならないものでした。さらに[一善や]の心を映していくためには、希少価値が高く『黒いダイヤ』とも称される黒無花果も欠かせません。
中村さん[一善や]では、以前から『干柿と胡桃と無花果のミルフィーユ』など、無花果を使ったお菓子が好評いただいておりましたので、今回も使おうと。このケーキに使っているものは愛知県の蒲郡で生産されていて、市場にほとんど出回らないので幻ともいわれる黒無花果の『ビオレソリエス』という種類です。
羽場さん他のもとのはどのように違うんですか?
中村さん皮から蜜が出てくるほど甘みが強く、ねっとりとした食感が特徴ですね。ポリフェノールやアントシアニンが普通の無花果に比べて豊富なので、「体にやさしいケーキを作りたい」という私の理想に寄り添ってくれます。これを皮ごと、酒粕に48時間漬け込むんです。
羽場さん皮ごとですか。
中村さん酒粕の発酵の力が皮もやわらかくしてくれるんですよ。酒粕の持つ独特な香りも残りません。無花果をしっかりと漬け込んでやわらかくしてから、炊き込んで冷やしています。
構想3年。体に優しい、
ウェルビーイングなケーキで社会貢献を。
羽場さん(実際に食べてみて)これはおいしい!無花果がごろっとしていてインパクトがありますね。
中村さんおいしいでしょう!1本のケーキに対して無花果を5~6個もぜいたくに入れています。刻んで生地に練り込むところも多いけれど、このつぶつぶとした独特な食感が好きなので、うちは丸ごとどーんとね。
ねっとりとした甘み、そして食感など、無花果の魅力をここまで引き出せるのは、酒粕の力があってこそです。
羽場さんいわゆる焼き菓子とは一線を画した味ですよ。コーヒーやお茶はもちろん、シャンパンや赤ワイン、そしてうちの作っている日本酒にも合いそうです。パリっとした外のチョコレートと、しっとりとした生地、そしてジューシーな無花果の組み合わせがたまりませんね。
中村さんそう言ってもらえて嬉しいです。よい食材を作ってくれる方がいるからこそ、私もそれに応えたい一心で洋菓子の道を突き進んでこられました。京都を代表する[玉乃光酒造]さんの酒粕を使わせてもらえたことで、理想の味に辿り着けました。引退する前に、自分の目指していたことが実現できたかな、と思います。
「素材の良さを引き出す」、「素材選びには手をぬかない」「和の心を大事にする」。これら[京洋菓子司 一善や]の哲学を体現するかのようなチョコレートケーキが完成しました。引退前最後に到達した味をぜひご堪能ください。
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- 中村 健二郎さん
- [一善や]創業者。現在は、[一善や]顧問。外資系製薬会社を退職後、京都らしいスイーツを目指して京都・北白川の地に開業。『茶の心』取り入れ、旬の素材を生かした洋菓子づくりを追求している。必要なものだけでつくるシンプルなケーキに定評がある。
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- 羽場 陽介さん
- [玉乃光酒造]副社長。公認会計士の経験を活かし、創業約350年の老舗酒蔵に新しい風を吹かせている。日本酒製造の副産物である『酒粕』の可能性に魅せられ、その魅力を広めるべく『酒粕を、日常に。』をテーマとする酒粕専門店[純米酒粕玉乃光]のオープンをはじめ、酒粕事業を展開。